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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
そして静かに岡のほうを顧みた。
何か遠いほうの物でも見つめているように少しぼんやりした目つきで貞世を見守っていた岡は、葉子に振り向かれると、そのほうに素早く目を転じたが、その物すごい不気味さに脊髄まで襲われたふうで、顔色をかえて目をたじろがした。
「岡さん。わたし一生のお頼み……これからすぐ山内の家まで行ってください。そして不用な荷物は今夜のうちにみんな倉地さんの下宿に送り返してしまって、わたしと愛子のふだん使いの着物と道具とを持って、すぐここに引っ越して来るように愛子にいいつけてください。もし倉地さんが家に来ていたら、わたしから確かに返したといってこれを渡してください(そういって葉子は懐紙に拾円紙幣の束を包んで渡した)。いつまでかかっても構わないから今夜のうちにね。お頼みを聞いてくださって?」
なんでも葉子のいう事なら口返答をしない岡だけれどもこの常識をはずれた葉子の言葉には当惑して見えた。岡は窓ぎわに行ってカーテンの陰から戸外をすかして見て、ポケットから巧緻な浮き彫りを施した金時計を取り出して時間を読んだりした。そして少し躊躇するように、
「それは少し無理だとわたし、思いますが……あれだけの荷物を片づけるのは……」