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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
自分で板戸を繰りあけて見ると、縁先には、枯れた花壇の草や灌木が風のために吹き乱された小庭があって、その先は、杉、松、その他の喬木の茂みを隔てて苔香園の手広い庭が見やられていた。きのうまでいた双鶴館の周囲とは全く違った、同じ東京の内とは思われないような静かな鄙びた自然の姿が葉子の目の前には見渡された。まだ晴れきらない狭霧をこめた空気を通して、杉の葉越しにさしこむ朝の日の光が、雨にしっとりと潤った庭の黒土の上に、まっすぐな杉の幹を棒縞のような影にして落としていた。色さまざまな桜の落ち葉が、日向では黄に紅に、日影では樺に紫に庭をいろどっていた。いろどっているといえば菊の花もあちこちにしつけられていた。しかし一帯の趣味は葉子の喜ぶようなものではなかった。塵一つさえないほど、貧しく見える瀟洒な趣味か、どこにでも金銀がそのまま捨ててあるような驕奢な趣味でなければ満足ができなかった。残ったのを捨てるのが惜しいとかもったいないとかいうような心持ちで、余計な石や植木などを入れ込んだらしい庭の造りかたを見たりすると、すぐさまむしり取って目にかからない所に投げ捨てたく思うのだった。