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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
こうして隣の部屋に気を配っていながらも、葉子は部屋のすみにきちょうめんに折りたたんである新聞を見ると、日本に帰ってからまだ新聞というものに目を通さなかったのを思い出して、手に取り上げて見た。テレビン油のような香いがぷんぷんするのでそれがきょうの新聞である事がすぐ察せられた。はたして第一面には「聖寿万歳」と肉太に書かれた見出しの下に貴顕の肖像が掲げられてあった。葉子は一か月の余も遠のいていた新聞紙を物珍しいものに思ってざっと目をとおし始めた。
一面にはその年の六月に伊藤内閣と交迭してできた桂内閣に対していろいろな注文を提出した論文が掲げられて、海外通信にはシナ領土内における日露の経済的関係を説いたチリコフ伯の演説の梗概などが見えていた。二面には富口という文学博士が「最近日本におけるいわゆる婦人の覚醒」という続き物の論文を載せていた。福田という女の社会主義者の事や、歌人として知られた与謝野晶子女史の事などの名が現われているのを葉子は注意した。しかし今の葉子にはそれが不思議に自分とはかけ離れた事のように見えた。
三面に来ると四号活字で書かれた木部孤という字が目に着いたので思わずそこを読んで見る葉子はあっと驚かされてしまった。