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あるおんなのしゅき

或る女の手記

豊島 与志雄

「婦人倶楽部」1920(大正9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,447 字 · 37 页

青空文庫

義姉さんからは非常に心配された。そして三人で、四日五日六日と二晩泊りで、箱根へ小遊に出かけた。けれども、お友達へ絵葉書の文句などを書いてる私の額は、ともすると曇りがちであった。私は本当に神経衰弱だったのかも知れない、或は既にその時から……。

学校が初って、暫くは何のこともなかったが、二月の或る寒い日、私はまた彼からつけられてることを感じた。然しその時は、彼――もしくは私の心の幻――は、途中で消えてしまった。そういうことが三月のはじめにも一度あった。

私はそれを兄さんに隠した。なぜだか分らないが、どうしても云えなかったのである。そして遂に最後の日がやって来た。

三月の十二日、その日は朝からどんより曇って、そよとの風もない、妙に頼り無い気のする日であった。朝は廻り途をして学校へ行った。帰りに廻り途をしようと思ったが、兄さんが少し風邪の心地で家にぼんやりしていられるのを思い出して、早く家に帰りたくなり、何の気もなく真直に戻って来た。

お寺の門の柱によりかかって彼が立っていた。私は平気を装いながら通り過ぎようとした。その時彼は何と思ったか、私に一寸お辞儀をした。