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あるひ
或る日
宮本 百合子
「愛国婦人」1925(大正14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,119 字 · 21 页
でない。
部屋はがらんと広く、明るく無人島のような感じを与えた。彼は暫く、両方の瞳を隅の方に凝して厚い壁で仕切られた隣室の様子に注意した。こっそり立ってクリーム色の壁のむこうを覗いて見たい気が頻りにした。――医者は動くことを禁じている。――
彼は、指先に力を入れてジーッとベルを押した。
跫音がして扉が裏側にれんをはりつけて開いた、彼女は、今度も把手に左手をかけたまま、首だけさし延して主人の方を見た。
彼女の顔は期待で緊張していた。何か一言云われたら、時を移さず「はい」と云う返事もろ共その膝をかがめようと、心に用意し決心しているかのようにさえ見える。
彼は、擽ったい焦立たしさを感じた。彼はぶっきら棒に云った。
「さっきの返事は?」
「はい?」
「さっきの電話の返事は?」
「ああ、ほんにまあ。――丁度お豆腐やさんがね参りまして」
「何て依岡で云ったんだ」
「――依岡様でよろしく申上てくれと仰云いました。いずれお正月にでもなりましたら旦那様も御全快になりますでしょうから、お二人様でおいでいただきましょうと仰云いました」
「ふむ。――」
彼は仰向いて枕についている眼の端から、れんを見た。