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あるひ
或る日
宮本 百合子
「愛国婦人」1925(大正14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,119 字 · 21 页
彼は境の扉が二三分すかしてあるのを見つけ、さっきからことりともさせない隣室の妻に声をかけた。
「さほ子、さほ子」
然し、彼の妻を呼び一緒にこの晴やかな tete-a-tete の団欒を味おうとした希望は失敗に終った。
今日は殊更しおれて何処か毛の濡れた仔猫のように見える彼女は、良人かられんに暇をやった一条を聞くと、情けない声で
「困るわ、私」
と云い出した。
「どうして一言相談して下さらなかったの?」
彼は尤もな攻撃に当惑し、頻りに掌で髪を撫であげた。そして熱心に弁解的説明をした。
「相談しなかったのはあやまるよ。然し、本当に五月蠅い気の揉める婆じゃないか」
彼は、さっきれんが一年にたった一度のクリスマスと云った口調を、その節まで思い出してむっとした。
「僕やお前が若いと思ってちび扱いにするんだ。代りなんかいくらでもあるよ。――僕だって先刻まで其那気はなかったんだが――」
彼女は寝台の端に腰をかけ、憤ったような揶揄うような眼付で、意地わるくじろじろ良人の顔を視た。
「仰云る気がないのに、言葉が勝手にとび出したの?」
「いつもいつも思っていたことが、はずみでつい出て仕舞ったのさ。