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あるそびょう

或る素描

豊島 与志雄

「新潮」1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,802 字 · 24 页

青空文庫

ただ彼がいつも一心になって、女給仕の透視に立会ったり、始終彼女に透視を強いたりしてるのは、そして時には、そのために授業時間まで忘れかけることがあるのは、皆に知られてる事実ではあったが、それは指輪の一件を弁義することにはならなかった。その上、彼女は相当の顔立だったし、彼は独身者だった。而も事が起ったのは、神聖なるべき教員室でだった。

「こんなことになっては、どう始末したらよいものか、私共も困ってしまうんです。」

教務主任はそんな風に、曖昧な口の利き方をした。

長谷部はしまいに黙り込んで、二人の前に頭を垂れていたが、やがてふいに云った。

「四五日、進退を考えてみます。」

そして彼は四五日欠勤すると云い置いて、学校の門を出た。若い女給仕はその日学校へ出て来なかった。

それから長谷部はどう考えたのか、私のところへやって来て、事の次第を話した上で、その女に結婚を申込んでくれと、私に頼むのだった。

「結婚するって、どうしてだい。」

私は彼の意外な決意に喫驚した。が彼の方が、私の驚きを不思議がってるようだった。

「どうしてって……ただ、結婚してみたいんだ。」

「馬鹿な、そんことで結婚する奴があるものか。