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あるそびょう

或る素描

豊島 与志雄

「新潮」1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,802 字 · 24 页

青空文庫

、第3水準1-92-36)いてるのをそのまま与えた。その他いろんな虫を与えてみた。毛虫には、二つに切った傷口にでなければ、蟻は食いつけなかった。蛞蝓には、決して蟻は寄りつかなかった。

七月の太陽がぎらぎら照りつけてる中で、彼は額に汗をにじませながら、誰が何と云っても耳を貸さないで、生きた虫類が蟻に取巻かれてのたうち廻ってる、その不気味な光景に夢中になって、夕方まで過してしまった。日が陰ってきても、頭のしんがくらくらしていた。

夜になって、彼は初めて我に返ったように、試験答案の調べにかかった。煙草をやたらに吹かし、時々重苦しい溜息を吐き、一晩中一睡もしないで、朝の七時頃までに二百枚余の採点を終った。

「僕はなまけ者だけれど、責任を果すことは知っている。」

蟻の話を彼の母親が私に訴えた時、彼は昂然とそう云ったのだった。

だが、蟻と虫との闘を一日中眺め耽って、何の足しになるか、またどこが面白いか、それについては彼は何にも云わなかった。恐らく彼自身にも分ってはいなかったろう。

そして単に蟻ばかりではなく、つまらないことに長谷部は夢中になる癖があった。

彼の母親が肺炎を病んで、だいぶ悪いということだったから、私は或る時見舞にいってみた。