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あるせんきょふうけい

或る選挙風景

坂口 安吾

「新潮 第四八巻第七号」1951(昭和26)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,997 字 · 14 页

青空文庫

私がムラムラと投票に行く気持になったのは、まったく妙な理由さ。拡声器の声はずいぶん遠方の演説までコクメイにきこえる。投票の二三日前になって、ふと妙な演説がきこえた。民主党の候補がそこで演説して立ち去ってまもなく、どこからか彼のトラックが同じ場所に現れて、ただ今この場所で民主党の誰それが私を中傷致しましたが……と云って、今演説して立ち去ったばかりの敵の効果をコクメイに叩きつぶしているのである。

それは時と場合によっては、極めて然るべき、又、効果的な作戦であるかも知れん。しかし、この選挙の場合、彼にそういうことができるのは彼がボスであり、あらゆる区域に手先の住宅があって、それをすぐ彼の本部へ電話するような組織網が完備しているせいだろう。智能的な作戦勝というよりも、この際はボスならではの作戦だね。猫が捕えた鼠を弄んでいるような残酷な暴力を感じたのさ。すぐ後から後からと、まいた効果をコクメイにつぶして廻られては、ボスならぬ組織なき者が哀れである。

民主党の候補はインテリの要素の豊かな人で、ボス的なところはなく、識見もあり、政策もある人のようであった。党派ということを別に、人間的にどれぐらいマシだか分らない。