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あるりょうにんのざんぱい

或良人の惨敗

佐々木 邦

「面白倶楽部」1926(大正15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,067 字 · 15 页

青空文庫

何うしてそんなものがお前の手に入ったんだろう?」

「あなたの夏服をクリーニングにやる時ポケットの中を検めました。すると電車の回数券の表紙と一緒に出て参りましたのよ。天罰ね」

と夫人は勝ち誇った。しかしクリーニングにやる時ではなかったかも知れない。良人たるものは毎日洋服のポケットを検められていると覚悟する方が安全である。

「あの碁盤には実際惚れたのさ。諦められなくて幾度も見に行ったが、既に二面あるので何うもお前には相談をかけ悪かった。そこで一策を案じて、碁会の翌日に実行したのさ。確か九月の俸給日だったと覚えている」

「私は腹が立ちましたわ。こんなことをしているならと思って直ぐ羽織を拵えたんですが、未だ虫が治まりませんから、帯も一本買いましたわ。両方で丁度碁盤ぐらいです。あなたが白状なすったから、私も白状致しますわ」

「お前もナカ/\隅へは置けないんだね」

と鳥居氏は拠ろなく夫人の手腕を褒めた。

「でも、私は良心がありますわ。始終気が咎めていたんですもの」

「何うだか?」

「それはあなたが御自分のお心に引き較べて仰有ることよ。あなたぐらい図々しい人はありませんわ」