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あるりょうにんのざんぱい

或良人の惨敗

佐々木 邦

「面白倶楽部」1926(大正15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,067 字 · 15 页

青空文庫

「図々しくもないんだが、美事成功した積りで安心していたのさ」

「安心していられる丈け図々しいんですよ。私なんか直ぐに後悔致しましたわ。帯や羽織を拵えても、あなたに見て戴けなければ些っとも嬉しいことはございませんわ」

と夫人は媚を含んだ目つきを良人に浴せかけた。三十を越しても努力すれば多少の色気は出る。

「成程、それもあったろうね」

と鳥居氏は先刻から散々胴突かれたことを悉皆忘れてしまった。

「私、毒婦でしょうかね?」

「いや、そんなことはないよ。あれは失言だ。取消す」

「もうお互に堪忍しましょうね」

「俺が悪かったのさ。これからは憲法を堅く守ろう。三十円以上の支出は必ずお前に相談する」

「通帳は見せて戴けませんの?」

「それ丈けはこの際俺の顔を立てゝおくれ。もう悉皆兜を脱いでいるんだから」

「これからを慎んで下されば宜うございますわ」

「無論慎むさ」

「お正月になると又碁会がございましょう? 碁盤が三面あって石が二組しかなければ、あなたは又屹度一等賞になって百円ぐらいの碁石を貰ってお出になりますわ。私、それが怖かったのでございます」

「もう大丈夫だ。買いたければ相談する。