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せんじょう

戦場

夢野 久作

「改造」改造社、1936(昭和11)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,769 字 · 51 页

青空文庫

こうした美しい、若い男を見ると、いつも、理屈なしに親しくしてみたい……親切に世話をして遣りたいような盲目的な衝動に駈られて仕様がないのであった。

「ハイ。この候補生は前進の途中、後方から味方の弾丸に腓を射抜かれたのです。それで匐いながら後退して来る途中、眼の前の十数メートルの処で敵の曳火弾が炸裂したのだそうです。その時には奇蹟的に負傷はしなかったらしいですが、烈しい閃光に顔面を打たれた瞬間に視覚を失ってしまったらしいのです。明るいのと暗いのは判別出来ますが、そのほかの色はただ灰色の物体がモヤモヤと眼の前を動いているように思うだけで、銃の照準なぞは無論、出来ないと申しておりましたが……睫毛なぞも焼け縮れておりますようで……」

「ウム。それで貴官はドウ診断しましたかな」

「ハイ。多分戦場で陥り易い神経系統の一部の急性痲痺だろうと思いまして、出来るなら後退さして頂きたい考えでおります。時日が経過すれば自然と回復すると思いますから……視力の方が二頭腓脹筋の回復よりも遅れるかも知れませぬが……」

「ウム。成る程成る程」

と軍医大佐は頻りに首肯いていたが、その顔面筋肉には何ともいえない焦燥たしい憤懣の色が動揺するのを私は見逃さなかった。