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せんじょう

戦場

夢野 久作

「改造」改造社、1936(昭和11)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,769 字 · 51 页

青空文庫

その劇薬化させられた感情の怪焔……毒薬化させられた道徳の異臭に触れよ。戦慄せよ。……一九一六年の一月の末。私が二十八歳の黎明……伯林市役所の傭医員を勤めていた私は、カイゼルの名によって直ちに軍医中尉を拝命して戦線に出でよ……との命令で、貨物列車――トラック――輜重車――食糧配給車という順序にリレーされながら一直線にヴェルダンの後方十基米の処に在る白樺の林の中に到着した。

その林というのは砲火に焼き埋められた大森林の残部で、そこにはヴェルダン要塞を攻囲している我が西部戦線、某軍団所属の衛生隊がキャムプを作っていて、夥しい衛生材料と、食糧なぞの巧みにカモフラージしたものが、離れ離れに山積して在った。

勿論、私は到着するがするまで、自分がどこに運ばれて行くものやら見当が附かなかった。市役所で渡された通過章に書いて在る訳のわからない符号や、数字によって、輸送指揮官に指令されるまにまに運ばれて来たので、そこがヴェルダンの後方の、死骸の大量蓄積場……なぞいうことは到着して後、暫くの間、夢にも知らずにいたのであった。ただ自分の居宿に宛てられた小さな天幕の外に立つと、直ぐ向うに見える地平線上に、敵か味方かわからないマグネシューム色の痛々しい光弾が、タラタラ、タラタラと入れ代り立代り撃ち上げられている。