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せんじょう

戦場

夢野 久作

「改造」改造社、1936(昭和11)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,769 字 · 51 页

青空文庫

今一度、私等二人に剣を捧げると靴音高らかに、活溌に廻れ右をした。

トタンに照明弾が消えて四周が急に青暗くなってしまった。網膜が作る最深度の灰色の暗黒の中に、何もかもグーンと消え込んで行ってしまった。

「……軍医殿……ワルデルゼイ大佐殿……」

という悲痛な叫び声が、照明弾の消滅と同時に負傷兵の一列の中から聞えた。それは腸のドン底から絞り出る戦慄を含んだカスレ声であった。

……と思ううちに忘れもしない一番右翼に居た肩を負傷した下士官が、青暗い視界の中によろめき出て来て、私たちの足下にグタグタとよろめき倒おれた。起上ろうとして悶えながら、苦痛に歪んだ半面を斜めに、月の光りの下に持上げた。そのまま極めて早口に……殆んど死物狂いの意力をあらわしつつハッキリと云った。

「……ミ……皆を代表して申しますッ。コ……ここで銃殺されるよりも……イ……今一度、戦線へ返して下さいッ。イ……一発でも敵に向って発射さして、死なして下さいッ。戦死者の列に入れて下さいッ……アッ……」

いつの間にか駈け寄って来たケンメリヒ中尉が、恐ろしく憤激したらしく、半身を支え起している軍曹の軍服の背中を、革鞭のようにしなやかな抜身の平で力一パイ……ビシン……ビシン……と叩きのめした。