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せんじょう

戦場

夢野 久作

「改造」改造社、1936(昭和11)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,769 字 · 51 页

青空文庫

――我が独逸軍は二月に入ると間もなくヴェルダンに向って最後の総攻撃を開始するらしい。目下新募集の軍隊と、新鋳の砲弾とを、続々と前線に輸送中である。そうして貴官……オルクス・クラデル中尉殿は、その来るべき総攻撃の際に於ける死傷者の始末を手伝うために、このキャムプに配属された、最終の一人に相違ないと思われる。

――我が独逸軍の一切の輸送は必ず夜中に限られているようである。仏軍は、そうした我軍の輸送を妨げるために、昨夜も見た通り毎晩日が暮れかかると間もなくから、不規則な間隔をおいて、強力な光弾を打上げては、大空の暗黒の中に包まれた繋留気球に仕掛けた写真機で、独逸軍全線の後方を残る隈なく撮影しているらしい。僅かな行李の移動でも直ぐに発見されて、その方向に集中弾が飛んで来るので、輸送がナカナカ手間取っている。現に左手の二三基米の地平線上に、纔かに起伏している村落の廃墟には、数日前から二個大隊の工兵が、新しい大行李と一緒に停滞したまま動き得ないでいる状態である。

――だからあの光弾の打上げられている方向がヴェルダンの要塞の位置で、愈々攻撃が始まったら、ここいらまでも砲弾が飛んで来ないとは限らない。