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せんごぶんしょうろん

戦後文章論

坂口 安吾

「新潮 第四八巻第一〇号」1951(昭和26)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,728 字 · 16 页

青空文庫

我々の文章が習い覚えたペルシャ語であるために、生きてる筈の言葉にも習い覚えたペルシャ語の死神の相がのりうつッているのですね。死神にとりつかれて蒼ざめた言葉を生気乏しく使っているのですよ。

当り前の言葉で大概のことが言い表せる筈ですよ。日常生活の言葉で文学論がやれないと思いますか。それだけの言葉では間に合わない深遠な何かがあるのですか。

私は坊主の学校で坊主の徒弟の稽古をやって、あんまり役に立つことがあったとは思わないが、一ツ驚いたことがありました。仏教哲学に倶舎論というものがあって、人間の心理を七十五に分類してますが、その分類された心理をどんなに先生にテイネイに教えていただいても全然わからんのですよ。梵語やパーリ語も心得て、西洋の哲学もわきまえて、西洋式の印度哲学に通じた大先生の一人でありましたが、チンプンカンプンで、適確なことはまるで分りません。ところが、真言宗の某派の管長の長老から同じ本を習いました。この長老は小猿のようにチョコチョコした人ですが、倶舎論にかけては天下に及ぶ者なしと実にハッキリと定評のあった倶舎論学者で、この人の講義にはおどろきました。