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せんごしんじんろん

戦後新人論

坂口 安吾

「文藝春秋 第二七巻第一一号」1949(昭和24)年11月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,363 字 · 15 页

青空文庫

終戦後、私が新人現るの声をきいたのは、升田幸三がはじまりだったようである。十年不敗の木村名人に三タテを喰わせて登場した彼であるが、木村に三タテを喰わせたという事実だけなら、さしたることではなかったろう。彼の将棋は相手に一手勝てばよいという原則を信条として、旧来の定跡の如きを眼中にしない。したがって、旧来の定跡では、升田の攻撃速度に間に合わない、などゝ言われたが、棋界は彼の出現によって、棋士の気風が一変した。既成定跡はフンサイされ、架空の権威は名を失って、各棋士が独自の新手を創造することを手合いの信条とし、日常の心構えとするようになった。

升田をキッカケに新人雲の如く起って、西に升田を叩きつぶす大山あれば、東に木村を破って名人位を奪う塚田あり、A級の十名中には、旧人の名を見ることができない。

一昔前と思い合せれば、月とスッポンの差があって、当時は囲碁界に於て木谷怪童丸と呉清源の両新人が現れて、碁界は三連星、天元等々新風サッソウたるにひきかえ、将棋の方は老朽七八段がガンクビを揃えて、あとにつゞく新風なく、養老院のような衰弱ぶりを示していたのであった。