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げさくしゃ

戯作者

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年4月1日春季特別号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,218 字 · 21 页

青空文庫

馬琴の健気なこの希望を浅利又七郎は受け納れた。

「先ず型を習うがよい」

又七郎はこう云って自身手をとって教授した。型の修行が積んだ所で又七郎は又云った。

「極意に悟入する必要がある。無念無想ということだ」

「無念無想と申しますと?」

馬琴にはその意味が解らなかった。

「敵に向って考えぬことだ」

「全身隙だらけにはなりますまいか?」

「そこだ」と又七郎は頷いたが、

「全身これ隙、それがよいのだ」

「ははあ左様でございましょうか」

「全身隙ということは隙が無いと同じことだ」

「ははあ」と馬琴は眼を丸くする。

「守りが乱れて隙となる。最初から体を守らなかったら、隙の出来よう筈はない」

「あっ、成程、これはごもっとも」

「さて、剣だ、下段に構えるがよい。相手の腹を狙うのだ。切るのではない突き通すのだ。眼は自分の足許を見る。そうしてじっと動かない。敵の刀が自分の体へヒヤリと一太刀触れた時グイと剣を突き出すがよい。肉を斬らせて骨を斬る。間違っても合討ちとはなろう。打ち合わす太刀の下こそ地獄なれ身を捨てこそ浮かむ瀬もあれ。一刀流の極意の歌だ。貴殿は中年も過ごして居る。今更剣を学んだ所で到底一流には達しられぬ。