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ぬきうちししべえ

抜打ち獅子兵衛

山本 周五郎

「講談雑誌」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,930 字 · 24 页

青空文庫

近侍の者が退出するのを待って、左内はずっとひと膝進み、虎之助の眼を見上げながら一念籠めた調子で云った。

「お願いと申すは他でもございません、こなた様に奥方を御推挙申上げたいのでございます」

「なんと云う、余に奥を……」

余りに突飛な言葉で、さすが鬼若と呼ばれた虎之助も唖然としたらしい。左内はかまわず続けた。

「こなた様が今日まで、お年に構わず未だ前髪のまま在す理由の一つは、御縁談を除けるお心積りと承りまする。お身分と申し御気性と申し、恐れながらこなた様ならではとかねてお見込み申上げましたればこそ、お眼につき易き両国にて高札を掲げ、お運びある日をお待ち申上げていたのでございます」

「ほう、……すると、賭け勝負は余を誘い出す手だてだと申すか」

「こなた様の御気性として、お眼に止まればそのままお見過しあそばすはずはなしと存じました。その節の無礼は平に、平にお赦しくださいますよう」

虎之助はじっと左内の顔を瞠めていた。……相手の一念凝った態度に、ようやく心を動かされたのである。

「左内、余に娶れという、その相手はいかなる身分の者だ」

「こなた様とお見込み申上げましたゆえ、ありのままに言上仕ります。