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ぬきうちししべえ

抜打ち獅子兵衛

山本 周五郎

「講談雑誌」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,930 字 · 24 页

青空文庫

「余はそのほうが欲しかった。そのほうは来てくれるものと思っていたぞ。それなのに今となってそんなことを」

「若殿、……そのお言葉は左内にとって骨に耐えます、もし、……もしお待ちくださいまするならば、やがて御前へまかり出まする」

「おお来るか、余の許へ来ると云うか」

「五年、……あるいは七年」

左内は空を仰ぎながら云った。

「お目通り仕るべき時と、覚悟のつきましたおりは、必ず立戻って参ります」

「誓言せい、待つぞ、五年、たとえ十年でも」

「誓言仕ります、必ずお目通り仕りまする、若殿……なにとぞ御武運めでたく、姫君の儀幾重にもお願い申上げまする」

「そちも健固で、必ず戻れよ」

「はあっ」

左内はじっと虎之助を仰ぎ見たが、思い切ったように拝揖すると、編笠を手に道へ出て、そのまままっすぐ、北へ立去って行った。