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だきみょうがのせつ
抱茗荷の説
山本 禾太郎
「ぷろふいる」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,330 字 · 34 页
度もない。だから確かだと思っているこの記憶さえ、ほんとうは君子がつくりだした想像であるかもしれない。
君子の祖母は君子が八歳のときに亡くなった。祖母が寝物語に君子に語ったところによると、君子の父は、君子が生まれた翌年の秋に死んだということである。父は善根の深い人で、四国、西国の霊場を経巡る遍路の人達のために構えの一棟を開放し善根の宿に当てていた。
遍路が村にはいってきて、この村に善根の宿をする家はないか、と尋ねると、村人はすぐに君子の家を教えた。だから種々様々な人体の遍路が泊まっていった。人の良さそうな老夫婦もあれば、美しい尼姿の遍路もあった。一夜の宿を恵まれた遍路たちは別棟の建物に旅装を解くと、母屋の庭にはいってきて改めて父や母に挨拶をする。父は君子の母に言いつけて、野菜の煮たのや汁、鍋などを遍路達のところに運ばせ、時には自分で別棟に出掛けて、遍路の話を聞いて楽しむこともあり、遍路の方から母屋に押しかけて来たこともあった。そんなとき母は父の傍らに坐って、だまって聞いていたそうである。しかし、遍路という遍路のすべてが、美しい尼さんや、人の良い老夫婦ばかりではなく、なかには向う傷のある目のすごい大男や、ヘラヘラとした幽霊のような老人、手のない人なぞ、ものすごく気味のわるい遍路も珍しいことではなかった。