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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
て、大切になさるお心持ちとを穿きちがえたようなお心持ちから、そんな風にしておいでになることが、物心ついてから後の私の眼にも、よくわかっていたように思います。ですからお父様は、お母様が家に居て、夜の眼も寝ずにお働らきになる姿を御覧になるのが何よりも楽しく、嬉しくおいでになるのでそのために御機嫌もよかったものと思います。
とは申せ、又一方から考えますと私のお母様のお仕事好きが、その頃はもう普通の意味のお仕事好きを通り越していたことも否まれないと思います。たといお父様の無慈悲な嫉妬深いお心が、お母様をどんなにか無理に押えつけて働らかせておりましたにしても、亦お母様が、どのようにお仕事好きでおいでになったにしましても、私が生れた後のお母様のお仕事ぶりは、とても人間業ではないと人々が申しておりましたそうです。
この事は只今私から考えてみますと、そうしたお母様のお心持ちがよくわかるように思いますので、つまりを申しますとお母様のお心は、私をお生みになりましてからというもの人間世界をお離れになって、唯、お仕事の一つに注ぎ込んで、ほかの事(それが何でありましたかという事は誰にわからなかったろうと思いますが)を忘れよう忘れようとしておいでになったのではないかと思われるので御座います。