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おしえのきせき

押絵の奇蹟

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页

青空文庫

何を申しましても私が生れましたのが阿古屋の琴責めの人形が出来ました年の新の師走も押し詰まった日で御座いましたのに、それから一箇月半ほど経った新の二月の中旬を過ぎますと、もう家の事はもとより、旧正月の仕事として外から頼んで来る裁縫や袱紗の刺繍、縫紋、こまこました押絵の人形など、どんなにお忙がしくともお断りにならなかったそうです。これは私が物心ついてから後も同じ事で、羽織、袴、婚礼の晴着と急ぎの頼みを、夜の眼も寝ずにお作りになるほかに、お父様の漢学のお稽古のあとで、近いあたりの娘さんが十人ばかりもお稽古に来られます。それを教えながらお母様は家内四人(お祖母様のも)の着物まで縫われますので、そのまめなことと熱心なことは、子供心にも感心する位で御座いました。夏の暑い夜、蚊に責められてもお構いにならず、冬の寒い日に手足をお温めになる暇もない位セッセとお仕事を励まれました。

その頃町つづきの博多福岡では大変に押絵が流行致しましたので、町の大家なぞは、女の児が生れますと初のお節句にはみんな柴忠さんのように、お芝居の小さな舞台を作りまして、その中に押絵の人形を立てますので、三人組なれば三円、五人組なれば五円と、向うから高価い値段をきめて頼みに来ました。