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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
そのうちにお父様の声は、なおも続きました。
「俺は今日がきょうまで知らなんだ。けれども最前あの櫛田神社の額を見ながら、人の噂をきいているうちに、あの犬塚信乃の押絵の顔が、中村半太夫の舞台に生き写しであることがわかった。そればかりでない。貴様の作った人形の顔が上物になればなる程、中村半太夫に似ていることも、そこに居った人の噂で初めて気が付いた。コヤツ(私)の眼鼻立ちが中村半太夫と瓜二つになっていることは近所の子守女まで知っていることもあの絵馬堂で初めてきいた。……この年月貴様に子が生まれぬわけも今はじめてわかった。……キ……貴様は、よくもよくもこの永い間俺に恥をかかせおったナ」
こうした声が響き渡るうちにお父様は片方の手を私の頭から離されましたので、私はやっと眼を開くことが出来ました。
お母様は畳の上に両袖を重ねて突伏しておられました。そうして声を押えて泣き続けておいでになりましたが、不思議と一言も云い訳をしようとはなさいませんでした。
私は、いつもお父様がカンシャクをお起しになった時のようにお母様はすぐにお詫びになることとばかり思っておりましたけれども、お母様はこの時ばかりはどうした訳か只お泣きになるばかりで、しまいには、その声さえ包まずに心ゆくばかり泣いておいでになったようです。