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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
その声をジッと聞いておいでになったらしいお父様は、やがて武士らしい威厳のある声でこう云われました。
「おれは覚悟した。貴様の返事一つでは、その場を立たせずにこの刀で成敗をしてくれる。先祖の位牌を汚した申訳にするつもりだ。サア、返事をせぬか」
と云いながらお父様は私の頭から手を放して、又帯際をお掴まえになりました。
その時にお母様はピッタリと泣き止んで静かに顔をお上げになりました。うつむいたまま紺飛白の前垂れを静かに解いて、丁寧に畳んで横にお置きになって、それから鼻紙でお顔の乱れを直して、ほおけかかった髪を丸櫛で、掻き上げてから、やおら眼をあげてお父様を御覧になりましたが、その時のお母様の神々しかったこと……悲しみも、驚きも、何もかもなくなった、女神のような清浄なお方に見えました。
お母様はそれから両手をチャンと、畳の上に揃えながらジッとお父様のお顔を見上げながら云われました。
「申訳御座いません……お疑いは御尤もで御座います」
と云ううちに新しい涙がキラキラと光って長い睫から白い頬に伝わり落ちましたが、お母様はそのまま言葉をお続けになりました。
「どうぞ、お心のままに遊ばしませ。