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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
それから後の私の心は、もう図書館に行く力もない位よわりきってしまいました。御飯さえ咽喉を通りかねるようになりまして、ただ、岡沢先生御夫婦に御心配をかけないために無理からお膳についているような事でした。
「このごろトシ子さんの風付きのスッキリして来たこと……それでこの東京に来た甲斐があるわ……ネエあなた……」
と云ってお二人から褒められたり、冷やかされたりしました時の辛う御座いましたこと……。
けれども、それでもまだ私の心の底に、あきらめ切れない何かしらが残っておったので御座いましょう。時々思い出したように上野の図書館に参りましては、医学に関係しました不思議な出来事や、珍らしい事実を書いた書物を、あてどもなく読み散らしておりますうちに又も、思いもかけませぬ書物から大変なお話を見つけ出しまして、ビックリ致したので御座います。
その書物を書かれましたのは、その頃もう亡くなっておられた医学博士の石神刀文という方で、たしか明治二十年頃に西洋の書物から飜訳なすったものと、おぼえております。題名は「法医学夜話」と申しますので、その中には昔から今日までの間に、法医学上の問題になりました色々な不思議な出来事が昔風の文章で面白く書いてあるので御座いましたが、そのおしまいの方に次のようなお話が交っておりました。