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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
その書物はもうどこの本屋にもないとの事でしたから、私はその後、今一度図書館に通いまして、そのお話のところだけを書き写して、お兄様のお写真やお話の記事と一緒に肌身離さず持っておりましたので、お読み悪いか存じませぬが、そのままここに挟んでおきます。
法医学夜話(石神刀文氏著)
第五章 人身の妖異 その一 姙娠奇談
人身の妖異、その他に関する法医学上の興味ある挿話も亦決して珍らしからず。中にも最も人の意表に出づるものあるは姙娠に関する奇談にして、到底コンモンセンスにては判断し得べからざるもの多し。
その第一に掲ぐべきは昔(西暦紀元前三百七十年前後)希臘の国の一王妃の身の上に起りし奇蹟的現象なり。
◇訳者曰く=憾むらくはこの原文には、その王と王妃の名を明記し在らず。当時希臘国内は雅典市を除くのほか、数個の専制的君主国が分立しおりしを以て、この事件の起りしもその中の一国なりと推測せらる。
その王妃は冊立後間もなく身ごもり給いて、明け暮れ一室に起臥しつつ紡績と静養とを事とせられしが、その室の間には、先王の身代りとなりて忠死せし黒奴の肖像画が唯一個掲げあり。