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しんどうま

振動魔

海野 十三

「新青年」博文館、1931(昭和6)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,354 字 · 34 页

青空文庫

から、今日は行って借りてこようと思い、麻布本村町にある彼の柿丘邸に足を向けたのだった。

玄関をガラリと開けると、僕はいつも履物を見る習慣があった。並んでいる履物の種類によって、在宅中の顔触れも知れ、その上に履物の主の機嫌がよいか、それとも険悪かぐらいの判断がつくのであった。その日の玄関には、一足の履物も並んで居なかった。では、おん大始め夫人まで、まだ海辺から帰っていないのだなと思ったことだった。

それなら、ソッと上りこんで、茶の間で昼寝をしているかも知れない留守女中のお芳を吃驚させてやろうと思って、跫音を盗ませて入っていったのだった。ところが茶の間にはお芳の姿が見えなかったばかりか、勝手元までがピッシャリ締めてあり、座蒲団の位置もキチンと整頓していて、シャーロック・ホームズならずとも、お芳は相当長時間の予定で外出したらしいことがわかった。だが、それにしては、何という不用心なことだ。現に僕という泥棒がマンマと忍びいったではないか。

だが、このときだった。ボソボソいう声がどこからともなく聴えたように思った。耳のせいかしらと、疑いながら、じッと耳を澄ませていると、いやそれは空耳ではなかった。