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しんどうま

振動魔

海野 十三

「新青年」博文館、1931(昭和6)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,354 字 · 34 页

青空文庫

秋という声が、どこからともなく聞こえてくると、急に誰もが緊張した顔付をするのだった。柿丘秋郎は、かつての日の雪子夫人の恐迫に震えあがったのを忘れたかのように、事業や講演に熱中した。だが、その度毎に、雪子女史の姿が影のようにつきまとっていたのは、寧ろ悲惨であると云いたかった。

柿丘秋郎が、自邸の空地の一隅に、妙な形の掘立小屋を建てはじめたのは、例の密会事件があってから、三十日あまり過ぎたのちのことだった。その堀立小屋は、窓がたいへん少くて、しかもそれが二メートルも上の方に監房の空気ぬきよろしくの形に、申わけばかりに明いていた。小屋が大体、形をととのえると、こんどは電燈会社の工夫が入ってきて、大きい電柱を立てて、太い電線をひっぱったり、いかめしい碍子をじこんだりしたすえに、真黒で四角の変圧器まで取付けていった。それがすむと、厚ぼったいフェルトや石綿や、コルクの板が搬び入れられ、それはこの小屋の内部の壁といわず、天井といわず、床といわず、入口の扉といわず、六つの平面をすっかり三重張りにしてしまった。室内へ入ると、まるで紡績工場の倉庫の中に入ったような、妙に黴くさい咽るような臭気がするのだった。