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たんていしょうせつをきる

探偵小説を截る

坂口 安吾

「黒猫 第二巻第九号」1948(昭和23)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,819 字 · 6 页

青空文庫

つまり、合理性を欠いているのだ。しかも当の作者は合理性を欠いていることに気付かず、あべこべに、ウヌボレをもち、不合理のトリックが不合理の故に正しい解答を得られぬことをさとらず、わが頭脳優秀の故に読者に犯人がわからないと考える。

物理学だの数学だの生物学だのと、一般人に通じない知識をひけらかしても何にもならないものだ。物理学は物理学の専門家に向って価値を問うべきもの、探偵小説は物理学の応用などで値打をますべき性質のものではない。これだけの幼稚な理窟も理解せられていない探偵小説界の知性の貧困というものは言語道断と申さねばならぬ。

犯罪という人間心理の秘奥について物語を作りながら、くだらぬ学術をふりまくばかりで、人間そのものについて、何ら誠実な勉強も行われていない。たゞもう、自分の小説に都合よく、デクノボーみたいに、あっちへ曲げこっちへヒン向け、有りうべからざる人間心理をデッチあげて、平然たるものである。

探偵作家の人間に対する無智モーマイ、それが即ち、探偵作家の根柢的な無批判性の当然の帰結でもあり、批判力があるならば、第一に、百年一日の如くクダラヌ形式を鵜のみに物語をデッチあげて済ましておられる筈もなく、デクノボーのような人間をこしらえあげて済ましていられる筈もない。