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すいりしょうせつについて

推理小説について

坂口 安吾

「東京新聞 第一七八一号、一七八二号」1947(昭和22)年8月25日、26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,257 字 · 11 页

青空文庫

探偵小説の愛好者としての立場から、終戦後の二、三の推理小説に就て、感想を述べてみよう。

横溝正史氏の「蝶々殺人事件」は終戦後のみならず、日本における推理小説では最も本格的な秀作で、大阪の犯行を東京の犯行と思わせるトリック、そのトリックを不自然でなく成立せしめる被害者のエキセントリックな性格の創造、まことによく構成されておって、このトリックの点では世界的名作と比肩して劣らぬ構成力を示している。

然し、敢てこの名作から三つの欠点をとりだして、一アマチュアの立場から、探偵小説全般の欠点に就て、不満と希望をのべてみたいと思う。

★

第一に、なぞのために人間性を不当にゆがめている、ということ。

犯人が奪った宝石をトロンボンのチューヴの中に隠しておいて、それを取りだすところを雨宮に見られたのでトッサに殺す。この死体を縄でよじりあげて五階の窓の外につるし、縄のよじれがもどって死体が外れて墜落するまでの時間に、階下へ下りて人々のたまりに顔をだしてアリバイをつくる。

隠した宝石をとりだすだけでも人に見つかる、それほどの危い綱渡りの中で、トッサにこんな手のこんだトリックをする、これが先ず人間性という点から不当なことで、死体を残して慌てて逃げだすのが当然である。