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にぎったて

握った手

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第八巻第六号」1954(昭和29)年4月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,293 字 · 23 页

青空文庫

一瞬間に、突然別世界へ走りこんでいたのだ。その晩、彼は綾子とのアイビキの時に、かなりよそよそしい態度を示した。綾子は次第に不キゲンになった。

「もう私が好きじゃないんでしょ。そうでしょう」綾子は強引でワガママだった。受身なのは松夫なのだ。彼女に高飛車にきめつけられると、松夫はヘドモドしてしまう。グッと踏みこたえて偉大な威厳を見せることは、彼女に対してはもう不可能なのである。彼が彼女に威厳を見せる手段と云えば、彼の方から別れようと云いだすぐらいのものだが、それが云えるぐらいなら苦労はしない。ジッと睨んでいる綾子から目をそらして、松夫は細い声で答えた。

「卒業試験も近づいたし、就職試験の結果はまずいし、とても毎日がつらいんだ」

「アナタなんか、二三年落第した方がいいわよ。学校を卒業してみたって、おぼつかないわよ」

事務員の綾子は松夫よりもお金持であった。松夫の方がおごられる率が多いので、総てにヒケ目を感じてしまうのである。その一夜、松夫は胸の中でこう呟きつづけた。

「オレに必要なのは革命だ。偉大な革命! 今日行われたあの革命。あの解放感! オレにだって、いろいろなことが、できるのだ」