轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
にぎったて
握った手
「別冊小説新潮 第八巻第六号」1954(昭和29)年4月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,293 字 · 23 页
しかるに娘がその手をきつく握り返したから、軽犯罪法のお世話に相成るべき不審の挙動が天下晴れての快挙と相成り、福は禍の門と云うが如くに禍根を残すこととなった。
松夫は一度だけこう云った覚えがある。
「君が隣席へ坐った時からキレイな人だなアと思っていたのだよ。それで映画に亢奮するとつい衝動的に握っちゃったんだ。君が握り返してくれた時にも、まだボンヤリしたままだったよ」
すると綾子も一度だけこう答えた。
「私もあなたが一目で好きになったのよ。フラフラッと隣へ坐っちゃったでしょう。見抜かれたみたいで口惜しかったわ。ヨタモノだと思ったわよ。でも、握り返しちゃったのよ。蓮ッ葉に思われるのが辛いわ」
この会話は一回きりである。二人の仲が深まり、遠慮がなくなるにつれて、このことにだけは再びふれなかった。
綾子への情が深まるにつれて、松夫は彼女の握り返した手にこだわった。むろん先に握った自分の手もイヤではあったが、それはこの際問題ではない。綾子はあのような時、誰に対してもあのように応じるのではないかと思いめぐらして苦しんだのである。
考えすぎるのはいけないことだ、とむろん彼も心得ていた。