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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

裏座敷にだけ畳が入っていた。店の間は、まだ床板も入れてない。

声をききつけて、行く前には無かった下見窓が明るく一つ切りひらかれた戸棚の前から母が出て来た。

「どうも御苦労さまでした。随分きれいになったこと!」

ひろ子は、挨拶した。

「お母さん、けさの新聞を御覧になりましたか?」

「重吉が帰りよりますのう。早う、田原へ知らさにゃと云っとったところいの。電話は通ぜんし……はよ戻ってよかった」

「あれに十日迄とあったでしょう。きょう立ってやっと位でしょうね」

「それいの――でも、どうにありましょう。一人で戻らりょかのう、あんた」

そのことをひろ子も気にかけた。十二年とりこめられて暮した病身の重吉が、一人で網走から、あの恐ろしい汽車にかきのってどうせ食べるものもろくに持たされず帰って来ることを思うと、いたいたしかった。

「東京から誰かに行って貰うにしろ、何しろ今のことで、どうせ間に合いっこなし。何とかなさるでしょう。そう思うしか方法がない。――お金は十分おもちです」

「そやったら、まあ、ええわの」

そこへつや子が、治郎を抱いて表から入って来た。土間の床几に縫子と並んでかけているひろ子を見て、受け口の口許をほころばした。