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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

隣室の兵たいは、あーあ、と退屈のやりどころない伸びをして、

「チェッ! 底ぬけでやがら」

舌うちした。

「きょうも、涙の雨がふる、か」

「冗談じゃねえよ。あの思いで遙々朝鮮くんだりから還って来てよ、内地へついて吻っと出来るかと思いゃ、大阪を目の前に見て足どめだ。二日だぜ、もう!」

むきになって云っているおっさんの声をききながら、ひろ子は、熱心に思いつづけた。ひろ子が、きょうこんなよろこびで二人の暮しを想うことが出来る、その可能を、あのとき、この折と、根気づよく導き出しながら困難な永い歳月を通って来たのは、何のおかげによるのだろう。それほどひろ子の愛は常に深いおもんぱかりに充ち、一本だちで、歴史の発展を見ぬいたものであったろうか。知らないうちに重吉が手をとって、いくつかの暗礁をこさせて来てくれていた。

ひろ子は、東京ではじめて重吉にあうとき、自分として第一に云うべき言葉は、彼の永年の辛苦に対する心からのねぎらいと、同じ心からの感謝であると思った。二人でここまで生きて来られたことに対して。

いきなり隣の部屋で、バタンと畳にぶっ倒れる音がした。

「大阪じゃ、家族の居どころさえわかっちゃいねえ。