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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

「すこしなんですもの、まだ……」

横なぐりの豪雨はいくらかしずまった。が、大盥にしたたる雨洩りは、暗い室の中で繁くきこえている。ひろ子は、足さぐりで畳のしめっていない床の間よりの一隅を見つけた。廊下に出してあった布団をもって来て、そこにのべた。

ほかの部屋では、早い宵の口から眠れもせず、廊下に向った唐紙をあけて燈明の灯の暗い明るみの中に寝そべりながら喋っている。やがて、隣室の復員兵の一人が唄をうたいはじめた。おそらく頭の下に両手をかって仰向き、膝立てした脚を重ねて、朝鮮の兵舎の草原でもそうやって唄ったのだろう。今雨もりのする、列車不通の姫路の宿の暗がりで、その男は、次から次へと、いろいろの唄をうたった。レコード覚えの流行唄ではなくて、何々音頭、何々甚句という種類の唄である。

廊下の燈明の、弱い黄色い光が襖の立て合わせから、ひろ子の布団の裾にさしこんでいる。たいして声がいいというのではなかったが、唄に心をいれて唄っているその気分が、聴くものをうるさがらせず、ひきつけた。おっつぁんがときどき、陽気に景気づけようとして、手拍子を入れたり、口三味線で合の手をいれたりしている。