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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
「奥さん、早うおいで。馬車がでけましたよ。これで明石まで行きましょう、さ!」
リュックをかたげてひろ子も小走りに後方へ行った。もうあらかた荷物や人が積まれている。ひろ子は、車輪の軸に靴をかけ、ようようよじのぼって箱のようなものの上へ腰をおろした。六十前後の母親と若い娘が、並んでかけた。支配人は、荷車の前部へのった。
「のれましたか、折角ここまで来て落ちたらあきまへんで!」
ともかく乗りもの、動いてゆけるものを捕えて、機嫌のよくなった人達がみんな笑った。
人と荷物をもりあげて、荷馬車はのろのろ動き出し、ちっとも変化のない列のわきを通った。
「ほう、見い! これやもの、トラックは来ん筈じゃ」
五六丁行った先に、おそらく二倍も三倍もの料金をはらう人たちだろう、一団のかたまりがあって、今、小型トラックが来て、その人たちを運ぼうとしているところなのであった。
「列に待っとったら、夜になりよるで」
一日の稼ぎである幾往復かをしてその荷馬車は、帰り車であった。馬は首をたれ、折々尻尾で蠅を追いのんきな運びで進んだ。徒歩でゆく馬子は、それをせかせる気もちもない。ゆっくり六時までには明石につける。