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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

戦争の災禍は、この「後家町」で石田の一家の生活の根太を洗った。じかな、むき出しな災禍の作用を現わしている。家財を焼かれた人々の損傷の深さを、ひろ子は東海道、山陽とのった汽車が西へ来るにつれて思いやった。けれども、戦争の真の恨みは、どういう人々のところにこそあるだろう。国体論はかくした方がいいでしょうかと不安げに訊いた片脚の白衣の人の瞳の底にあった。そして、「後家町」の、ここにある。日本じゅう、幾十万ヵ所かに出来た「後家町」の、無言の日々の破綻のうちにある。

ひろ子のこめかみをすべってつめたく苦い、渋い涙が、籐製の小枕におちた。戦争犯罪人という字句をポツダム宣言の文書のうちによんだとき、ひろ子は、その表現が自分の胸にこれだけの実感をたたえて、うけとられるとは知らなかった。ひろ子は、世界の正義がこの犯罪を真にきびしく、真にゆるすことなく糺弾することを欲した。

九

「おばあちゃん、おばあちゃん」

そう呼んでつや子が、母に何か云っている。おばあちゃんというようなよびかたは元来、ふっくりした優しいよびかけであるはずだのに、つや子のそのよび声には、呼ばれたもののこころを誘い出す暖いはずみよりも、押しつけるかたさが響いている。