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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
浅田は驚いて、静子を捕えた手を放した。静子ははっと飛び退いて乱れた裾を掻き合せた。
お篠はいきなり浅田に獅噛みついた。
「何をふざけた事をしやがるのだっ!」
お篠は浅田に武者振りつきながら泣声を振絞るのだった。
浅田はお篠を振放そうとしたが、女ながらも必死の力を籠めているので生優しいことでは放れない。彼は大きな拳を上げて、お篠の頬を撲り飛ばした。それから打つ、蹴る、噛みつく、暫し乱闘が続いた。
お篠は口惜し涙に咽びながら、切々に喚き出した。
「口惜しいっ! ひ、人を馬鹿にしやがって、亭主のいない留守につけ込みやがって、何だこの態は! さっきからいくら玄関で呶鳴ったって、下駄がちゃんと脱いであるのに、返事をしやがらねえ、変だと思っているうちに奥の方でドタンバタンと音がするから来て見ればこの体だ。何てい恥ざらしな真似をするんだ。口惜しい、口惜しいよう」
「静かにしろ」
浅田の眉は悪鬼のように吊上がった。
「愚図々々吐かすと、只じゃ置かないぞ」
「なんだって、只は置かないって面白い、手前が恥しい真似をしやがって、あたしをどうしようていんだ。殺すなら、さあ殺せ」