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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
石子の手を執らんばかりにして渡辺は云った。
「之を見て呉れ給え」
「支倉から何か云って来たのか」
石子は渡辺が只ならぬ様子で差出した手紙を一目見るより叫んだ。そうして引ったくるように受取ると、一気に読み始めた。
「うん、又裏を掻かれたのだ」
渡辺は情けなさそうに云った。
「畜生!」
読み終った石子刑事は唇を噛んだ。
「どこまで悪智恵の働く奴だか訳が分らない」
「一時も早く公園の警戒を解いて貰わねばならないのだ」
渡辺が叫んだ。
「そうだ。もしきゃつに悟られると大変だ。すぐ電話をかけて警戒を解くとしよう」
石子は直ぐ応じたが、落胆したようにつけ加えた。
「あゝ、今日こそは逃がさないと思ったのに」
「僕もそう思って今朝からソワ/\していたんだ」
渡辺は残念そうに云った。
「兎に角、僕は電話をかけて来るよ。何、未だ望みはあるよ。支倉に悟られて終った訳じゃないんだから。鳥渡待っていて呉れ給え。悠り対策を講じよう」
石子はそう云い捨てゝ足早に外へ出た。
渡辺刑事が支倉の手紙を握ったまゝ、何か考えるともなく、茫然突立っていると、やがて石子刑事が急ぎ足で帰って来た。
「君、もう心配はないよ」