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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

答 知りませぬ。離婚する話があったか否も忘れました。

問 然らば此の建物譲渡証書は如何。

答 私は存じませぬ。誰が作ったか知りませぬ。家内に建物を譲る話をしてあったか否か分りませぬ。

問 定次郎より百円の受取証を取ったか。

答 取った様にもあり、又取らぬ様にもあります。

問 神戸より右金を定次郎に授受の際被告は立会わなかったか。

答 分りませぬ。

問 授受は大正二年九月二十六日の夜であったか、又は其翌日であったか。

答 晩であったか、朝であったか分りませぬ。神戸より話を受けたか否やは覚えませぬ。

問 兎に角二十六日の晩被告は神戸方に行き小林兄弟に会ったか。

答 警察に於ても皆が会ったと云うから会ったごとく申述べましたが、如何であったかわかりませぬ。

問 何故分らぬ。

答 どう云う訳か分りませぬ。

支倉喜平は徹頭徹尾否認を続けた。然しながら最後の答えの如きは、神戸牧師小林兄弟が口を揃えて同日神戸方で支倉に会った事を証言しているのであるから、支倉の否認は理由なきものと云わねばならぬ。支倉は二十日間未決監に前途の暗澹たる運命を嘆いているうちに、ふと一切を否定しようと云う事に考えついたのではあるまいか。