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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
で、わしはその金を自分の事に使う積りはない。その金を資本にして、お前が一生困らないだけの収入を得て、子供を育て上げて呉れゝば好いのだ。兎に角千五百円と云うのは余り安い。いくらなんでも二千円には売れるだろう。浅田に相談して見て呉れ」
浅田に相談することは気が進まなかったが、静子は逆らわないようにと、
「はい、それではそういたしましょう」
そう云って面会所を出たのだったが、それから二、三日経つうちに思いがけない大変が起った。それは東洋火災保険会社が家を仮差押えしてしまったのだった。
支倉が起訴されて予審が有罪と決すると、その刑事記録を証拠として、支倉を対手取り二つの私訴が提起された。
一つは例の聖書会社からで盗まれた聖書価格約七千円の損害賠償で、もう一つは今云う保険会社からで、詐取された保険額約三千円の損害賠償だった。保険会社の方は兎に角聖書会社は博愛主義の基督教の宝典たる聖書の販売元だから、罪を憎んで人を憎まずと、損害賠償の私訴などを起して、今更支倉を苦しめなくても好さそうなものだが、矢張りそうは行かぬと見えて、忽ち訴訟を起した。所が流石は聖書会社で物件の差押えまではやらなかったが、そこは機敏な保険会社が直仮差押えを申請したのだった。