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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

この家屋は浅田の奔走で静子の名義になっていた筈であるが、手続が完了していなかったか、それとも外に仮差押えをする途があったか、兎に角、家はもうどうする事も出来なくなったのだった。

唯一の望みだった家が差押えられて終ったので、静子は茫然として終った。次の面会の時に彼女は悄然として夫にその事を語った。

「家を売ろうと思いましたが、保険会社に差押えられて終いました。もう駄目です」

「なにっ、差押えられた?」

支倉の相好は忽ち変った。彼のいかつい眉が釣上り、眼は爛々と輝いて、無念そうな有様は、流石の静子もタジ/\とする程だった。

「そ、それは本当かっ!」

家を差押えられたと聞いて、支倉の憤怒は一通の事ではなかった。静子はその権幕におじたけれども今更隠す事も出来なかった。

「はい、一昨日差押えられました」

「うむ」

支倉の眼は怪しく光った。

「騙されたのだ。署長に一杯嵌められたのだ」

静子は夫の興奮があまりに激しいので、宥めようとしたが、さっきからこの異様な光景に気づいていた看守は、忽ち二人の間を隔てゝ終ったので、面会はそれ切りになり、静子は夫に一言の慰めをも与える事が出来なかった。