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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「交番で私の住所を調べやがってね。近々私の宅を訪ねると云うので女房は震え上っているんですよ。ハヽヽヽ」

この時扉が開いて一人の巡査が顔を出した。

「司法主任、電話です」

急いで出て行った大島警部補はやがて興奮した面持で帰って来た。

「北紺屋署からだ」

彼は早口に云った。

「今朝配付の写真に該当する人物が、先般来度々同署へ出頭したそうだ」

「何、なんですって!」

根岸と石子の両刑事は同時に叫んだ。

「確にあなたの云われる通りの男です」

若い巡査はうなずいた。

石子刑事は北紺屋署の陰鬱なジメ/\した一室で彼に相対していた。

「三度来たと思います」

巡査は続けた。

「何でも車掌の不注意で電車から転がり落ちて、その為に腕に繃帯をしていましたし、医者の証明書見たいなものも持っていました」

「で、損害賠償でも取ろうと云うのですか」

余りの人もなげな振舞に石子刑事は唇を噛みながら聞いた。

「そうなのです。どうしても電気局対手に損害賠償を取るんだと云って、非常な権幕でした。然し私の見た所では大した傷でもないようだし、告訴までして騒ぐ程の事もなかろうと、穏かに示談にしたらいゝだろうと勧めたのです」