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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

四月七日に至って左の如き決定書が下附せられた。

決定

支倉 喜平

右に対する窃盗放火詐欺強姦致傷殺人被告事件に付き大正十三年四月二日公判準備手続に於て被告人及其弁護人より申請したる証拠調べに対し、検事の意見を聞き左の如く決定す。

右申請中庄司利喜太郎、戸塚新蔵を証人として訊問し其余は却下す。

大正十三年四月七日

裁判長以下署名捺印

支倉はこの決定を受取ると文字通り雀躍して喜んだ。恨み重なる庄司署長、今まではたゞ呪いの手紙通計七十五本で間接射撃をするばかりだったが、今度は彼を眼のあたりに迎えて、思う存分望みを遂げる事が出来る、彼はこう考えたのだった。

彼は庄司署長の出頭する日を一日千秋の思いで待ち受けたのだったが、それが彼の余命を縮める基になろうとは、夢にも知らなかったのだ。

かくて五月十四日に第一回公判が開かれたが、この時既に庄司、神戸両氏は証人として出廷していたが、支倉は冒頭に何を考えたか不貞腐れて終った。

裁判記録によると彼は裁判長の訊問に答えなかったのである。

「裁判長は被告人に対し氏名年齢職業住所本籍出生地を問いたるも被告人は黙して答えざるを以て重ねて問いたるも尚答弁せず」