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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「おい」

対手の態度に少し狼狽した渡辺刑事は再び呶鳴った。

「早く云わないか」

「そんなに頭ごなしに云わなくっても好いじゃありませんか。悪い事をしたと云う訳じゃなし」

彼はぷん/\して答えた。

もしや口止めでもされていると生優しい問方では云うまいと思って、高圧的に出て見たのだったが、対手にこう出られると渡辺刑事も返す言葉がない。

「いや悪かった。つい癖が出てね」

渡辺刑事は苦笑しながら、

「まあ、気を悪くしないで呉れ給え。すまないが荷物の送先を教えて呉れ給え」

若者の機嫌は少し治ったが、未だ容易に口を開こうとしなかった。

「おい、兼吉、旦那もあゝ仰有るんだ。早く申上げたら好いじゃないか」

主人が口を添えた。

「飯倉一丁目の高山と云う宅ですよ」

彼は漸く吐き出すように云った。

運送店を突留めてそこの若い者からどうやら荷物の届先を聞き出して渡辺刑事は、喜び勇んで支倉の家の附近に引返した。打合せてあった通り石子刑事は茫然待っていた。渡辺が成功した事を伝えると、彼は雀躍りして喜んだ。

二人は直ぐに帰署して司法主任に事の次第を報告した。

「よし」

司法主任は上機嫌だった。