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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

おや未だ笑ってやがる。手前達は支倉を知らねえのかい、あの悪党の支倉を」

定次郎は次第に呂律が廻らなくなって来た。

往来の真中で、而も大勢の見物に向って、へゞれけに酔った定次郎が、支倉々々と喚き出したので石子刑事は驚いた。

「おい/\、下らん事を云うな。おい、黙れったら」

けれども定次郎は愈※(二の字点、1-2-22)調子づいた。

「何でえ、支倉が何でえ。あんな野郎に嘗られてこの俺様が黙って引込んでられるけえ。さあ来い。うむ、支倉が何でえ」

定次郎はとうとう往来の上へ潰れて終った。

折好く巡回の巡査が通りかゝったので、石子は刑事の手帳を示しながら、

「こいつはね、鳥渡知ってる奴なんです。三崎町にいるんですがね、すみませんが保護をしてやって下さい」

巡査は弥次馬を追払いながら、定次郎を引立てゝ行った。

彼に喧嘩を吹きかけられた対手は見物が次第に散々になっても、そこを動こうともせず、やがてツカ/\と石子の傍へ近寄った。

「あの、ちょっとお伺いしますが、今あの男の云った支倉と云うのは支倉喜平の事じゃありませんか」

「えゝそうです」

石子は吃驚して彼の顔を見た。

「あなたは警察の方なんですね」