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ほうろうのやど

放浪の宿

里村 欣三

「改造」1927(昭和2)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,066 字 · 28 页

青空文庫

(彼奴は、白のスパイに違いないのだ!)

二人の酔どれが、眼を醒ました時には、酔払わない前と同じように、真昼間だった。太陽が焼けていた。風がちっともなかった。ただちょっと頭がふらついた。――この辺から少し昨日と変っている。汗ばんだ肌が、砂利でこすったように痛かった。咽喉が乾いた。

何んだか少し世界の角度が狂ったような訝かしさを、二人は宿酔の頭に感じなければならなかった。

周囲の記憶が、少しもなかった。――無理もない。彼等は宿泊所の畳の上で目醒めたのだ!

彼等はすっかり時の経過と、生命の流れの一部分を忘却していたのだ。彼等の二人は、握手をかわした馭者や、乞食みたいなロシヤ人によって、タワリシチの礼をつくすために、この宿泊所へ運び込まれたことを少しも知らなかったのだ。若しも大連が、そのような親切な介抱を、彼の愛するロシヤ人によって受けた事実を知ったならば、彼は骸骨になってでも東支鉄道の線路を伝いつづけて、彼の愛するロシヤに突走る覚悟を決めたであろう。

左官は一度目を覚ましたが、また寝こんでしまった。はっきりほんとに眼を覚ましたのは夕方であった。

大連がいなかった。