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ほうろうのやど

放浪の宿

里村 欣三

「改造」1927(昭和2)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,066 字 · 28 页

青空文庫

だが、そんなことは少しも不思議ではない。腹が減って仕方がなくなると、誰にしたって夜鷹のように餌を拾いに出掛けなければならない。だが――一つ驚いたことに、大連のかわりに、黒眼鏡がすぐ傍で、大安坐をかいて、黒パンの大きな塊りを片腕に抱え込んで、それを襤褸巾のように引き裂いて、豊かに頬張っていた。

左官は頬ペタから、骨が抜け出るほど青くなって、そのまま縮んでしまった。

「おい! 若いの。眼が醒めたか?……ところでお前は馬鹿だな。何んで昨日は俺にむかって来たのだ」

そら! 左官はまるで針鼠のように震えあがってしまった。黒眼鏡は唾の足りない口から、パン屑をぼろぼろこぼしながら、ゆっくり責め抜こうとするのかも知れない。

「時計屋はな。お前。魂のかわりに、こんどは骨ぐるみさらって行かれそうな声をたてて***********おとなしく待ってらあ、手前にも*********有りつかすんだったのに! 馬鹿だなあ」

左官は驚いた。こんな筈である道理がない! 彼はそろそろ首を伸ばした。

黒眼鏡は何んとも思ってはいないのだ。かえって彼のあの気狂い染みた突嗟の気持を、まるで憫笑しているのだ。