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ほうろうのやど
放浪の宿
里村 欣三
「改造」1927(昭和2)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,066 字 · 28 页
無精髭の伸びた坊主が、迂散臭い眼付きで、若者の頭のさきから靴のさきまで眺め上げ、眺めおろした。
「何処から来た?」
坊主は木を折るように怒鳴った。
「は、奉天から」
「歩いてか?」
「え……」
「そこに帳面と硯があるので、原籍と姓名を書きとめておいて、向うの長屋で休むといい」
坊主は面倒臭く言葉半分に言い捨てて、とっとと奥へ戻ってしまった。
『お腹が減っているんですが、一口……』と思ったが、もう追いつかなかった。若者はぼんやり気の弛むのを感じた。
宿泊所と云っても、それは名ばかりのもので、貸家づくりの八畳一間きりの長屋だった。何んの目的のために、こんな貸家を宿泊所に潰したのであるか、その坊主の魂胆は言わずと知れている! 窓ガラスは破れ放題だし、畳はぼこぼこにほぐれていた。ペンキの剥げ落ちたドアに通じる路だけが、どうにか路らしく踏みにじられてある以外は、雑草が跳梁するままだった。恰もそれは雑草に埋れた破家の感じで、得体の知れない蔓草に窓も壁も蔽われて、更にこの宿泊所の陰鬱な零落者の蔭を濃くするために、葉の繁ったアカシヤの木立が深々と枝を垂れていた。
若者は把手の壊れたドアを開けて、薄苔の生えた土間に入って行った。